季節の刻

第12回大黒屋現代アート公募展 

板室温泉大黒屋では2017年 3月1日(水)から3月30日(木)まで、第12回大黒屋現代アート公募展を開催いたします。
 
大黒屋現代アート公募展は、2006年より現代アートの世界に挑戦する新進アーティストの発掘と支援のため毎年公募にて広く作品を募集してきました。本公募展の特徴はアーティスト、ギャラリスト、キュレーターの三者三様の目により多角的な視点で作品を選出している点。また、平面・立体や素材を問わず多様な作品を募集している点です。これまでも木彫、油彩、石彫などさまざまな作品が大賞に選出され、日本や海外で展示を開催するなどそれぞれに活躍しています。
 
今年も北海道から九州までの作家から379点の作品の応募があり、大賞作品1点、入選作品18点が選ばれました。この機会にぜひ若い才能の作品をご覧くださいませ。
 
 
プレスリリース
受賞作品詳細
展覧会情報はBlogにて更新しております。
 


 
 
 
第12回大黒屋現代アート公募展 大賞受賞
八木史記 「respiration」
 
型取りされたモルタルのその表面には、粒子の粗さや水の配合具合などに起因する小さな気泡が作られ、無機質な中にも、呼吸のイメージすら彷彿とさせる質感を生み出す。一方で、水と混合し、練られたばかりのドロドロの状態を放置しておくとドロドロの形状のまま硬化し、実際の硬さとは対照的に、どこか有機的な雰囲気さえ感じさせる。モルタルは人工的で無機質な素材であるが、時間の経過や扱いの違いで多彩な変化を作り出すことができる魅力的な素材である。そして金属という同じく人工的で無機質な素材と組み合わせて用い、素材としての可能性を追求するとともに、自然や大地の形を象ることで、新たな空間、新たな空気を作り出したい。
 
 
 
審査員 講評

菅 木志雄 
〈固景の思い〉
モチーフになっている樹木は、元々自然の中にあるものである。自然はいうまでもなく人が日々目にしているので、意識の中に特別の思いでもなければ、あらたな視線を向けることは、少ない。が自然には、人の意識を喚起するさまざまな要素がある。光にしても風や水の流れや木々のざわめきや木の葉の散りぐあいなど無限といっていいほどである。そのような自然の〈動き〉の中で、人は生きていて、そのことを実感しているといっても過言ではない。人は自然が一瞬たりともとどまっていず、動いていることは承知しているにもかかわらず、そのことに特別の思いを抱くことは少ない。自然の法則性に逆わず人の意識はたもたれている。ところで、この作品は、モチーフが樹木であり、かつそれがまるでケーキでもカットしたかのように〈切り取られ〉ている。そして、それは造形としてモルタルでつくられている。この作品がなんであるか知れるのは、視覚的な要素のみである。見れば、何をあらわしたのか、わかる。樹木なのである。どこにある、どのような種別の樹木なのか、それはつくった人でなければわからない。この樹木が、どのような場所にあってどのように光をあび、風にゆれているのか、想像すべくもないが、逆の意味で自然の法則性を無視してなり立たせることが、ものの実体性をより強固に指し示すこともあるといえる。また自然の無限性に思いを向けることも反作用としてあるのであった。
 
 
 
天野 太郎 
大黒屋の公募展も12年目を迎え、知名度の高さに伴って応募作品の質も年々上がっているように実感します。今回の入選作は、比較的立体作品が多い印象があり、大賞を取った八木史記さんの作品も風景を抽象化した立体作品で、展示の方法など今後工夫の余地があるものの、作品への評価が高いものでした。全体として素材のメディウムを絞り込んだ手業による作品が多かったのも印象的でした。
 
 
 
小山 登美夫 
今回の大黒屋の公募展にはバラエティに富んだ優秀な作品が多かったと思います。立体、平面を問わず、規制の考えにとらわれない独自のアプローチで作られた作品を面白く拝見しました。八木史記さんの作品は、モルタルという人工物のもつ特性に魅力を持ち、そこに自然とのつながりをみて、自然の風景である地面から生えている樹木の姿をつくります。でも、自然を模しているわけではなく、この場でできてくる新しい風景や空間を体感できるすばらしい作品だと思います。