平井 明子展 -Moon Jar-
板室温泉大黒屋では、2026年9月4日(金)から9月29日(火)まで、英国・ロンドンを拠点に活動する陶芸家・平井明子の個展を開催いたします。
平井は日本で認知心理学を学んだ後に渡英。ロンドンの多文化的な環境に触れ、自身の文化的背景とものの見方との関係に意識を向けるようになります。その後、ウェストミンスター大学、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズで陶芸を学び、2003年よりロンドンを拠点に制作を続けています。英国を中心にヨーロッパ、アメリカなどで作品を発表し、2019年にはLOEWE FOUNDATION Craft Prizeのファイナリストに選出されています。長年海外を中心に活動してきた平井にとって、本展は日本国内で初めてとなる個展です。本展では、代表作「Moon Jar」を中心に、植物の種の莢から着想した「Poppy Pod」、ジョルジョ・モランディの静物画を出発点とする「Morandi Bottles」の3つのシリーズ、およそ70点をご紹介します。
Moon Jar
平井の代表作「Moon Jar」の出発点となったのは、ロンドンの大英博物館で出会った李朝の月壺でした。なかでも平井が惹かれたのは、イギリスの陶芸家ルーシー・リーが寄贈したとされる一つの月壺です。上下二つの器を接合した跡、口縁に残る小さな欠け、土に含まれた不純物による鉄の斑点。真っ白で無垢な満月のような形を目指してつくられたはずの壺には、制作の過程や、その後に過ごした時間によって生まれたさまざまな痕跡が残されていました。平井はそれらを、単なる傷や不完全さではなく、壺が経験した「出来事の跡」として捉えます。その考えは、自身のMoon Jarにもつながっています。窯の中で高温によって柔らかくなった土は、重力や上部の重みによって沈み、傾き、歪み、ときには完全に潰れてしまいます。平井は長年の制作を通して、土や釉薬が起こす化学的、物理的な変化をある程度予測しながらも、すべてを意図通りに制御するのではなく、素材が環境に応答することで生まれる変化を受け入れています。焼成という環境をくぐり抜け、最終的に残った形や表情そのものを作品として受け入れる。そのため、一つひとつのMoon Jarには異なる傾きや歪み、表面の変化が現れます。平井にとってMoon Jarは、古典的な月壺の形を再現するものではありません。制作の過程で壺が経験した出来事と、そこに残された痕跡そのものが、作品の見どころとなっています。
Poppy Pod
「Poppy Pod」は、約10年前、植物をテーマとしたグループ展への参加をきっかけに生まれたシリーズです。花が落ちたあとに残るポピーの種の莢や、ドイツの写真家カール・ブロスフェルトによる植物写真から着想しています。
特徴的な白く荒れた表面は、ロンドンで目にした、湿気による白華現象で粉を吹き、崩れかけた煉瓦壁から着想したものです。その質感を種の莢へと移すことで、平井は「化石化した種」のような、何かが長い時間眠り続けている姿を想像しました。このシリーズは、その後「Content & Container(中身と入れ物)」という考えへと展開します。私たちが見ることのできるのは外側の「殻」ですが、その外側を見ることで、むしろ目に見えない内側を想像する。平井はその内部に、眠っているのか、成長しているのか、あるいは外へ出る時を待っているのか分からない、「生きているもの」を想定しています。
Morandi Bottles
「Morandi Bottles」は、イタリアの画家ジョルジョ・モランディの静物画から着想したシリーズです。
平井がモランディの静かな静物画に見ていたのは、瓶や器そのものだけではなく、物と物の間に生まれる空間や光でもありました。ボトルの表面には面取りを施しながらも、「描きかけの絵」であるならすべてを完成させなくてもよいのではないかと考え、あえて途中で削ることを止めた作品もあります。複数のボトルを並べることで、その配置によって形と形の間に異なる空間が生まれます。
制作を続けるうちに、ボトルは次第に人間の身体を思わせる存在へと変化していきました。平井が暮らすロンドン・ハックニーは、さまざまな文化的背景を持つ人々が生活する地域です。街を歩く人々には、背の高さや体型だけでは説明できない多様なプロポーションがあり、そこに姿勢や動き、それぞれの個性が加わります。
平井はボトルをつくることを、「ろくろの上でハックニーの人々をさらっとデッサンしている感覚」に近いと語ります。一つひとつの形だけでなく、その組み合わせによって生まれる空間や影、そして人のような気配も、このシリーズを構成する要素となっています。
日本で初めてとなる個展に向けて
大黒屋では、2022年に開催したグループ展「つぼ展」で平井の作品を紹介しています。日本で生まれ育った平井ですが、陶芸を学び、作家として活動を始めたのはイギリスでした。以来、四半世紀にわたりロンドンを拠点に制作を続けてきた平井にとって、本展は日本で初めてとなる個展です。
平井は今回の個展に寄せた文章の中で、次のように記しています。
「日本で育った二十数年の間に培われた感性は、長く外国で暮らしても完全には消えない。私の好む形や作風は、ときどき『日本っぽい』と言われる。しかし、あくまで『日本っぽい』のであって、日本のものではない。日本で育った私がイギリスで学び、四半世紀にわたって作り続けてきたものは、やはり私自身の陶芸なのだと思う。」
本展では、平井の現在を、Moon Jar、Poppy Pod、Morandi Bottlesの3つのシリーズを通してご紹介します。
平井明子|Akiko Hirai
1970年日本生まれ。愛知学院大学文学部心理学科で認知心理学を学んだ後、渡英。
ウェストミンスター大学で陶芸を学び、2003年にロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズのCeramic Designを卒業。同年よりロンドンにスタジオを構え、現在まで制作活動を続けている。
英国を中心にヨーロッパ、アメリカなどで作品を発表し、2019年にはLOEWE FOUNDATION Craft Prizeのファイナリストに選出。
主な展覧会・受賞歴
2026 Found: An Introduction to Seeing, New Craftsman Gallery, St Ives, UK
2025 IMMORTALITY, Guild Gallery, New York, USA
2025 New Ceramics, Beaux Arts Bath, Bath, UK
2025 Akiko Hirai Ceramics Exhibition, Goldmark Gallery, Uppingham, UK
2024 Sleep On It, Contemporary Ceramics, London, UK
2024 Taking Space, Making Space, The Winter Show, Park Avenue Armory, New York, USA
2023–24 Vital Clay, Make Hauser & Wirth Somerset, UK
2023–24 The Art of the Potter: Ceramics and Sculpture from 1930 to Now, The Hepworth Wakefield, UK
2023 On Foot: An Exhibition Curated by Jonathan Anderson, Offer Waterman, London, UK
2023 Pendulum, The Scottish Gallery, Edinburgh, UK
2023 Major Ceramics Exhibition, Goldmark Gallery, Uppingham, UK
2021–22 Container and Content, Guild Gallery, New York, USA
2021 Pioneering Women, Oxford Ceramics Gallery, Oxford, UK
2019 LOEWE FOUNDATION Craft Prize ファイナリスト
2017–18 Things of Beauty Growing: British Studio Pottery, Yale Center for British Art, New Haven, USA / The Fitzwilliam Museum, Cambridge, UK
2013 Akiko Hirai: Still Life, The Scottish Gallery, Edinburgh, UK
主な収蔵先
Victoria and Albert Museum(ロンドン)
The Fitzwilliam Museum(ケンブリッジ)
The Hepworth Wakefield(ウェイクフィールド)
National Museum of Ireland(ダブリン)
Keramikmuseum Westerwald(ドイツ)
Everson Museum of Art(ニューヨーク)
開催概要
平井明子 展|Akiko Hirai Exhibition
会期:2026年9月4日(金)– 9月29日(火)
時間:10:00–17:00
※初日9月4日のみ13:00開館
会場:板室温泉大黒屋
住所:栃木県那須塩原市板室856
※展覧会はご宿泊でない方もご覧いただけます。
菅 木志雄 倉庫美術館
アーティスト菅木志雄の作品のみを常時展示している美術館です。
スタッフが庭の作品などもあわせて毎日案内しています。
- 現代アートと大黒屋
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なぜアートなのか
それは アートの持つエネルギーが我々の持つ美意識に働きかけてくれるからです
日常忘れかけている心の美に気づきそれに触れるとき・・・
我々は本当の自分に出会えるのではないでしょうか
浴衣姿になってアートに触れる・・・ 美術館では味わえない開放感と
一筋の緊張感・・・ そこにこそ 本来の心地よさがあるように思います
板室の自然とアートが調和する空間で心身ともにリフレッシュしていただきたい
それが大黒屋の願いです