季節の刻
磯谷 博史展 −すきまを育てる−
板室温泉大黒屋は、8月1日(月)から8月30日(火)まで、美術家の磯谷博史による個展「すきまを育てる」を開催いたします。板室温泉大黒屋では初めての個展となる本展で、新作4点を含む写真作品16点を展示いたします。
磯谷博史の写真作品は、「降り積もった雪に、玄関のドアが円弧を描く」「苺の実に、アクリルのカプセルを被せて育てる」「床に落ちたプラスチックカップに光が差し込み、思いもよらない乱反射がおきる」など、物理的、力学的な作用が繰り返しモチーフとして表れます。
こうした因果関係や作用と反作用の様相を「釣り合いをさぐる景色」と磯谷は呼び、その過程にある事物の危うさや儚さ、世界が微妙なバランスで存続していることを見つめる視点が、継続されてきた小さな写真作品群に独特な気配を伴って結実しています。
セピア調といえる一連のモノトーン作品は、カラーで撮影された写真から色彩を意図的に減退したものです。
同時に、かつて写真の中にあった特徴的な1色または2色が、その写真を支えるフレームの一部に着色されています。磯谷は一枚の写真を、いわば形と色との因果関係にあえて構造的に分解し、作品化しているのです。
作家はこの分解を「すきまを育てる」と捉え、作品はこの「すきま」によって観客の思考を呼び込むパズルとなり、シンプルで素朴な認識への揺さぶりを投げかけてきます。
現在に属ずる物としてのフレームが、色彩を介して、撮影された写真の過去のイメージとリンクする点においても、安定し統合された事に「すきま」を設けようとする作家の態度が見てとれるでしょう。
また作家は、過去にこの写真作品群について「写真にフレームをとりつけるのではなく、フレームという物質に写真を貼る」と話しています。こうした言葉からも彼が写真に対し「何が写ってるか」だけでなく「物質」として写真を捉え、考察していることがわかります。
磯谷博史による複層的に編まれた存在への問いかけのパズル、是非この機会にご高覧いただけたら幸いです。
*8月18日(木)20時からサロンにてアートを語る会(アーティストトーク)を行ないます。
作家在廊予定日:8月1,18日
展覧会情報はBlogにて更新しております。
プレスリリース
美術家を支えてきた伝統ある大黒屋での展示を、とても光栄に思います。
あの深みのある黄土の壁に作品をかけると、
どんな気配をともなって空間が表れるのか、今からとても楽しみです。
磯谷 博史
略歴
1978年生まれ。
美術家。東京藝大で建築、同大学大学院先端芸術表現科及び、ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、アソシエートリサーチプ ログラムで美術を学ぶ。
写真、彫刻、ドローイング、それらの複合によるインスタレーションの制作を通して事物への認識を再考している。
近年の主な展覧会に
“Time Machine” YKG, 東京, 2016
“囚われ脱獄、囚われ脱獄” CUPSULE, 東京, 2016
“実測” CHIKA ECODA 日本大学芸塾学部, 東京, 2015
“The Beach That Never Was” ICAS, シンガポール, 2014
“Lag” LISTE, バーゼル, 2014
“Duality of Existence” Friedman Benda, ニューヨーク, 2014
“Personal Structures” Palazzo Bembo, ヴェニス, 2013
“Tacit Material” RM Gallery and Projects, オークランド, 2013
“Counting The Event” 青山|目黒, 東京, 2012 など。
2015年、ポンピドゥーセンターのパーマネントコレクションに作品3点が選ばれる。